プロジェクトストーリー 1

Story 1 ダム工事の常識を変えろ ハルドックス製軽量バケット

1.ハルドックスで
ダム工事の生産性を向上

長い年月をかけて建設される巨大なダム。その工事の工程の多くを占めるのが、膨大な量のコンクリートを打設する作業だ。「バケット」と呼ばれる円筒型の容器にコンクリートを入れて運搬し、型枠に流し込む―。

何千回、何万回と繰り返されるこの作業を効率化し、生産性を上げることができないか?白羽の矢が立ったのが共和工業所だった。ハルドックスを使ってバケットを薄肉化し、軽量化するというミッションだ。

ケーブルクレーンで吊り下げられたバケットから
コンクリートを打設する様子(八ッ場ダム)
近藤
「従来の素材よりも薄く、軽くすることで、その分1回に大量に運べるのはメリット。ハルドックスという材料で作るには適していると思いました。」
産業機械エンジニア 近藤氏

バケットは高さが2~3mもある巨大な円筒型。鉄板を曲げて溶接して作る。しかし、世界一の耐久性を誇るハルドックスを‶曲げる″ことは簡単ではない。また、通常の鉄板を曲げる角度(アール)では割れてしまうため、角度を大きく、なだらかにとらなければならないのだ。

近藤
「設計はお客さん側でしたが、ハルドックスの加工経験がない方が図面を書いているので、ここはこうしたらできますよと提案して最初の設計から変更してもらいました。お客さんもこちらの意見を取り入れてくれました。」

 共和工業所は国内に6つあるスウェーデン・スティール社のハルドックスの認定加工パートナーだが、特殊な加工から組付けまで一気通貫にできるのはアジアでもここだけ。最初は穴を開けるにも普通のドリルでは歯が立たず、海外から特殊な刃を取り寄せたり、能力の高いプレス機を導入したりして試行錯誤を繰り返した。足掛け5年にわたって様々なトライ&エラーを重ねてノウハウを蓄積し、ハルドックスの加工技術を確かなものにしたのだ。

ハルドックスの曲げ加工をするための
大型プレス機
栗原
「会社にデータが蓄積されています。曲げに関してもここまでいけば割れてしまうので、この厚みだったらこのアール(角度)をかけないと曲がりませんよ、と基本ベースがあって。」
産業機械メカニック 栗原氏
石井
「バケットは1つに見えるけど4つに分かれていて、溶接でつなぎ合わせるのは苦労したところです。そういう細かいところでは職人の技が光っています。出来たものを社内の技術者達が見てすごいなって顔をしているのを見ると喜びを感じますね。」
産業技術メカニック 石井氏
栗原
「あのくらい大きなサイズになると定尺サイズの板1枚では足りないので、溶接でつないでやる必要があります。それを僕らはどう繋ぐか、何等分にするのかを考えて。曲げやすく、繋ぎやすく。」
石井
「(栗原さんの班が)初代を作りました。興味あるから通りすがりに見て、ああやって作るんだなと。直接聞くのは恥ずかしいので。プライドが邪魔して。(笑)」

2.建設業の課題解決に
多大な貢献

共和工業所ではハルドックス製の軽量バケットをこれまでに5基製作し、全国のダム工事で導入されている。このうち、群馬県の八ッ場ダムではバケットの重さを従来から1トン軽くした。これにより従来のバケットの積載量が5.5㎥だったのに対し、軽量バケットは6.0㎥となり、打設能力が約10%向上した。コンクリートダム建設工事ではコンクリート打設がコスト構造の約6割を占めているため、生産性向上の効果は大きかった。

共和工業所での軽量バケット製作の様子

軽量バケットの開発はダム工学会で技術開発賞(清水建設)を受賞するなど、将来の担い手不足も懸念されている建設業の課題解決に多大な貢献をしているが、作った当の本人たちは謙虚で自然体だ。

栗原
「(社会の役に立っている)実感は正直ありません。自分の仕事をしているだけです。」
近藤
「お客さんに気に入ってもらえているのは嬉しいし、ありがたいことです。」
石井
「光栄なことだと思います。また受注があれば品質を上げて前できなかったことを取り入れてつくっていきたいです。明日につながるいいモノを作っていきたい。」

3.ハルドックス加工は
他の追随を許さない

 ハルドックスは買えば素材自体は使えるが、加工のノウハウを一から蓄積しようとしても、ドリルの刃から選定しなければならない程の気の遠くなるような時間がかかる。共和工業所は何度もトライ&エラーを繰り返したからこそ、これ以上曲げたら割れるところを知っている。それを知らない他社が自分で板を入手してやろうとしても割れてしまうだけで、ハルドックス加工への新規参入は難しいのが実情だ。

東京ビックサイトで開催された
2022 NEW 環境展での HARDOX 展示の様子
石井
「先代(今の会長)が加工できる流れをつくってくれたので、それが今、うちの強みになっています。ずっと挑戦、変化を続けていて、それにメカニックがついていく。ハルドックスを扱うこと自体が他社にはできない。他社はどこに使っていいかまだわからないはずです。」
栗原
「基本的には材料のメリットをアピールしてきたので、それによってお客さんから問い合わせがあり、こうしたいという話が来ています。」
近藤
「ハルドックスの認知度が上がってきたので、営業でこちらから提案する時期は去ったと思っています。以前は何を使ったらいいか聞かれていましたが、今はお客さんの方からハルドックスで作りたいとオーダーがある。スタートの段階が違ってきているのを感じます。」
軽量バケット制作に携わった技術者たち
(左から栗原氏、近藤氏、石井氏)

共和工業所の軽量バケットは、革新的な鉄のソリューションを讃える業界で最も権威ある国際賞「スウェーデン・スティール・プライズ2023」に国内で唯一エントリーされた。世界No1の耐久性を持つ特殊鋼ハルドックスの認知度は年々上がっており、加工まで一気通貫にできる共和工業所の存在感は高まるばかりだ。(OHK岡山放送)